2026年1月23日に放送されたABCテレビ『探偵!ナイトスクープ』のある企画が、放送直後から「これはヤングケアラー問題ではないか」と大きな批判を浴びた。6人兄妹の長男を務める小学6年生の依頼をめぐる回で、番組はその後異例の謝罪声明を重ね、社長が記者会見で謝罪する事態にまで発展している。
この記事では、放送された企画の内容、炎上が拡大した経緯、ABCテレビ側の対応、そして半年以上が経った2026年9月時点でどうなっているのかを、確認できる事実にもとづいて整理する。
何が放送されたのか
依頼者は、広島県在住の小学6年生(12歳)の男子。6人兄妹の長男で、下には10歳・8歳・5歳・2歳・0歳の弟妹がいる。母親が会社を経営し、父親が家事・育児の多くを担う家庭で、長男もまた炊事・洗濯・弟妹の世話などを日常的に担っていた。
依頼文には「長男をやるのに疲れた」「1日だけ代わってほしい」という趣旨が記されており、霜降り明星のせいやが探偵として「新・長男」を1日務める企画として放送された。せいやは朝から夕方まで炊事、洗濯、弟妹の世話、ペットの散歩などをこなし、長男に「お前はまだ小学生や」「大人になんなよ」と声をかける場面も放送されている。
番組は長男の健気さを強調する感動的な演出で編集されていたが、長男の表情が終始暗いことや、せいやが励ましたすぐ後に母親が「お米7合炊いて」と指示する場面など、演出と実態のギャップが視聴者に強い違和感を与えた。
なぜ「ヤングケアラー」だと批判されたのか
放送前から、番組公式サイトに掲載された依頼文がSNS上で拡散され、「これはヤングケアラーだ」「児相案件では」という指摘が出ていた。放送後は、X(旧Twitter)やYouTubeを中心にさらに批判が拡大している。
主な批判点は、12歳の子どもが乳児を含む弟妹の世話や家事を一手に担っている状況そのものへの疑問、経済的に余裕があるとみられる家庭でありながら長男に負担が集中している点、そして深刻な問題をコミカルな「感動話」として消費する番組の演出手法だった。
番組はその後、公式サイトで企画の背景を説明している。それによれば、実際には母親が事業を営み、父親が家事・育児の多くを担う「主夫」だったが、番組の演出上、せいやと子どもたちだけが家に残される設定に構成していたという。この説明が、かえって「やらせの暴露」として受け止められ、批判をさらに強める結果になった。
エスカレートした二次被害
炎上は、番組や企画そのものへの批判にとどまらなかった。放送直後には、母親・父親・母親が経営する会社のInstagramアカウントが特定され、批判コメントが殺到する事態になった。母親が過去に育児について綴った投稿がスクリーンショットで拡散され、「児童相談所に通報した」と報告するXユーザーまで現れたと報じられている。
その後の報道では、YouTuberによる自宅への突撃取材、殺害予告、住所の晒し、長男の学校でのいじめ被害、母親が経営するサロンの予約が全キャンセルになったことなど、家族への深刻な二次被害が伝えられている。番組を批判する声の中にも、「これでは子どもがますます追い詰められる」と二次被害そのものを問題視する意見が少なくなかった。
ABCテレビの対応:2度の声明と社長会見での謝罪
事態を受け、ABCテレビは2026年1月25日・26日、公式サイトで謝罪声明を発表した。「取材対象者やご家族に対して、SNS等で強い批判や誹謗中傷が広がっている状況を重く受け止めています」「誹謗中傷は絶対に許されません」「取材対象者への接触・詮索を控えてほしい」と呼びかけ、TVerでの当該回配信を停止した。
さらに2026年1月30日には、朝日放送テレビの今村俊昭社長(64、2024年4月に代表取締役社長に就任)が記者会見を開き、「取材対象の家族に大きなご負担をおかけしている状況を大変重く受け止めている」「ヤングケアラーという社会的課題に対する認識が十分ではなかった」などと謝罪した。
家族側の説明と、長男本人の言葉
両親は、虐待・ネグレクト・ヤングケアラーのいずれにも当たる事実はないと説明しており、警察・行政機関に相談・確認をしてもらったが問題はないと言われた、としている。一部報道でも、児童相談所・警察による確認の結果、虐待やネグレクトの事実は確認されなかったと伝えられている。ただし、これらはいずれも家族側の説明、またはそれを伝える報道にもとづくものであり、行政機関自身による公式な調査結果の発表文そのものは確認できていない。この点は断定を避け、「確認できていない」情報として扱っておきたい。
番組側の説明によれば、長男は大好きなバスケットボールを週3〜4日続けており、家事は分担制だという。2026年2月3日には、両親が「集英社オンライン」の取材に実名・顔出しで応じ、「私たちの長男は決してヤングケアラーではないと思うのですが、連日そんな罵声を受けていると、自信もなくなってきました」とコメントしている。長男本人も、周囲から心配されることについて「大丈夫なの?と毎日聞かれるのがつらい」「お父さんやお母さんを傷つけないでほしい」といった趣旨の言葉を残している。
2026年2月4日には、両親が新しいInstagramアカウントで長文の声明を公開し、虐待・ネグレクトを改めて否定して再出発を宣言した。しかしこの声明も、「自己正当化に見える」「説明が足りない」と受け止められ、批判が再燃する一因になったと報じられている。
半年後、2026年7月31日の社長会見
放送から半年余りが経った2026年7月31日、ABCテレビは大阪市福島区の同局で夏季社長会見を開いた。今村俊昭社長はこの中で、依頼した家族とは「今もきちんとコミュニケーションを取っている」と説明している。
今村社長は「依頼者に出演してよかったと思っていただけるように、出演者を守り、バラエティー番組で扱う社会課題を制作サイドがしっかり認識した上で、番組を作っていく」と述べ、出演者保護に取り組む考えを示した。同局は2026年3月、出演者保護をテーマに専門の弁護士を招いた勉強会を開催するなど、出演者が安心して番組に出られる体制づくりを進めているという。
現在(2026年9月時点)の状況
084deepsで確認した範囲では、2026年7月31日の社長会見以降、この件に関する新たな公式発表や大きな続報は見当たらない。家族や長男のその後の詳しい近況についても、8月・9月時点での新しい報道は確認できなかった。放送から半年以上が経ち、大きな動きが止まっているぶん、当面は今回の一件を教訓とした番組側の出演者保護の取り組みが、実際にどう運用されていくかが焦点になりそうだ。
まとめ
『探偵!ナイトスクープ』の「長男を代わってほしい」企画は、演出と実態のギャップが「ヤングケアラー問題」として受け止められ、番組・出演家族の双方を巻き込む大きな炎上に発展した。ABCテレビは2度の声明と社長会見での謝罪を経て、2026年7月末の社長会見でも改めてこの件に触れ、出演者保護の取り組みを説明している。
一方で、児相・警察による確認で問題はなかったとされる(家族側の説明・報道ベース)にもかかわらず、家族には深刻な二次被害が及んだ。番組の演出のあり方だけでなく、SNS上での過熱した反応そのものも問われた騒動だったと言えるだろう。


