柳沢正史とは何者か?ラスカー賞受賞の理由と、堀大輔さんの配信と話題が重なった経緯

エンタメ・人物

2026年9月9日、筑波大学の柳沢正史教授が「ノーベル賞の登竜門」とも呼ばれる米国のアルバート・ラスカー賞を受賞したというニュースが流れた。

同じ日、SNSでは別の”睡眠”の話題も盛り上がっていた。「1日30分睡眠を17年続けている」と主張する実業家・堀大輔さんが、自身の睡眠メソッドを証明するための1週間ライブ配信をスタートさせていたのだ。

本物の睡眠研究者が世界的な賞を受けたニュースと、自称ショートスリーパーの配信が同じタイミングで話題になった。この記事では、柳沢正史さんがどんな研究でラスカー賞を受賞したのか、そして両者の話題がどう重なっていたのかを、事実と推測を区別しながら整理する。

柳沢正史さんはどんな研究者なのか

柳沢正史さんは1960年、東京都生まれ。筑波大学大学院を修了し、医学博士号を取得した。

大学院在学中の1988年、血管を収縮させる物質「エンドセリン」を発見し、Natureに発表。この発見は後に、肺動脈性肺高血圧症の治療薬の開発につながっている。

31歳で渡米し、テキサス大学サウスウェスタン医学センター教授、ハワードヒューズ医学研究所研究員を2014年まで24年間にわたって務めた。渡米後の1998年には、脳内の新しい神経ペプチド「オレキシン」を発見し、Cellに発表。翌1999年には、オレキシンを持たないマウスが、グルーミング中に突然崩れ落ちるなど、ヒトのナルコレプシー(情動脱力発作を伴う過眠症)によく似た症状を示すことを確認した。

2012年からは、文部科学省の世界トップレベル研究拠点プログラム「国際統合睡眠医科学研究機構(WPI-IIIS)」の機構長を務め、現在に至る。2017年には筑波大発のスタートアップ「株式会社S’UIMIN」を創業し、代表取締役CEOに就任。2024年に同社の取締役CSO会長へと退いている。

紫綬褒章(2016年)、文化功労者(2019年)、ブレークスルー賞(2023年)など、これまでも数多くの賞を受けてきた研究者だ。

「オレキシン」の発見が評価された理由

今回のラスカー賞(基礎医学研究部門)は、柳沢さんとスタンフォード大学のエマニュエル・ミニョー教授の2人が、共同で受賞した。授賞式は2026年9月17日、米ニューヨーク市内で開催される予定だ。

受賞理由は、覚醒を維持する脳内の神経ペプチド「オレキシン」を発見し、その欠乏がナルコレプシーを引き起こすメカニズムを解明したこと。

柳沢さんは、脳内の「オーファン受容体」(働きが分かっていない受容体)を活性化させる物質を探す中で、ラットの脳組織から2種類のペプチドを発見し、ギリシャ語で「食欲」を意味する言葉にちなんで「オレキシン」と名付けた。オレキシンを欠損させたマウスは、普段元気に動き回っていたかと思うと突然その場に崩れ落ちるという、ナルコレプシーに酷似した症状を見せたという。

一方のミニョー教授は、ナルコレプシーを発症する犬(ドーベルマンやラブラドール)の遺伝解析を約10年かけて実施し、オレキシン受容体の遺伝子変異を特定した。2人はほぼ同じ1999年、独立してオレキシンの欠乏とナルコレプシーの関係を報告している。

この研究が土台となり、現在ではオレキシン受容体拮抗薬が不眠症治療薬として、オレキシン受容体作動薬がナルコレプシー治療薬として承認されている。1998年の発見から実に28年をかけて、基礎研究が薬として実を結んだかたちだ。

ラスカー賞では同時に、中外製薬の服部有宏元シニアフェロー、北沢剛久さん、井川智之さんの3人も、血友病治療薬の開発で臨床医学研究部門を受賞した。柳沢さんを含め日本人4人が受賞するのは、2014年に森和俊さん(名城大学)が受賞して以来12年ぶりのことだという。

受賞にあたり柳沢さんは「睡眠科学という注目度の低い分野において、この最高峰の学術賞を受けたことは勇気づけられます」とコメント。日本経済新聞の取材には「やっと睡眠の基礎研究が日の目を見る時代になった」と喜びを語る一方、「どうなるか分からないような基礎研究は世界的にディスカレッジされている」と、基礎研究を取り巻く環境への懸念も示している。

「ポケモンスリープ」の監修も担当

柳沢さんは研究の傍ら、一般向けに睡眠の大切さを伝える活動にも力を入れてきた。その代表例が、2023年7月にリリースされたスマートフォンゲーム「Pokémon Sleep(ポケモンスリープ)」の監修だ。

このアプリは、スマートフォンの加速度センサーで寝返りなどの体動や、いびきなどの音を検知し、睡眠を「うとうと」「すやすや」「ぐっすり」の3段階で計測・分析する仕組みになっている。アプリ内には「柳沢先生と学ぶ最新の睡眠科学」というコンテンツも用意されている。

ITmedia NEWSの報道によれば、ポケモンスリープでの計測データから、日本の平均睡眠時間はサービス開始から3カ月で1時間10分増えたという結果も出ており、柳沢さんは「やればできるんだ」とコメントしたと伝えられている。

睡眠学者としての研究成果だけでなく、ゲームという身近な形で睡眠への関心を広げてきたことも、今回の受賞が大きく報じられた背景の一つと言えそうだ。

柳沢さんが以前から語ってきた「自称ショートスリーパー」への指摘

ここからが、堀大輔さんの配信と話題が重なった理由につながる部分だ。

柳沢さんは今回の受賞より前から、複数のメディアの取材で「ショートスリーパー」について繰り返し発言してきた。

2020年12月のBusiness Insider Japanの取材では、「睡眠時間がおよそ5時間以下の日が続いても、眠気などの自覚症状がなく、健康上の問題もない人」を真性のショートスリーパーと定義した上で、次のように述べている。

> 「真のショートスリーパーはおそらく数百人に1人しかおらず、ショートスリーパーかどうかは遺伝子によって決まる」

2024年5月の「週刊現代」の取材では、さらに踏み込んだ発言をしている。

> 「トゥルー(真性の)ショートスリーパーであるか否かは、遺伝子レベルで決まっている」「数千人にひとりしかいない」「訓練してなれるようなものではありません。99%以上は”自称”ショートスリーパーです」

柳沢さんによれば、慢性的な睡眠不足が続くと「眠気というのは自覚できなくなっていく」ため、本人が「ショートスリーパーになれた」と感じているのは、実際には「脳が麻痺しているに過ぎません」という。同氏の研究では、4時間睡眠を5日間続けると、徹夜レベルまで脳機能が低下するというデータもあるそうだ。

なお、実際に遺伝的な短時間睡眠体質は存在する。2019年、米カリフォルニア大学の研究チームが、3世代にわたり短時間睡眠者が続く家系を調べ、「ADRB1遺伝子」の変異を発見している。ただしこの変異は10万人に4人程度とごくまれで、発見したのも柳沢さんとは別の研究チームだ。

これらの発言は、いずれも堀大輔さん個人を名指ししたものではなく、一般論としての「自称ショートスリーパー」への指摘であることは明記しておきたい。

堀大輔さんの配信と重なったのは”偶然”

柳沢さんのラスカー賞受賞が発表されたのと同じ2026年9月9日、堀大輔さんはYouTubeで「1週間ライブ配信 ショートスリーパー堀大輔の日常」をスタートさせていた。「1日30分睡眠を17年続けている」という自身の主張を証明する目的の企画だったが、配信初日から美容整体師の施術中に20分以上眠ってしまう場面が記録され、「マイクロスリープを10回しただけ」という本人の説明に懐疑的な声が上がっている。詳しい経緯は以下の記事にまとめている。

柳沢さんが堀さんについて直接コメントしたという情報や、両者に接点があったことを示す一次情報は見当たらない。あくまで「本物の睡眠研究でラスカー賞を受賞した研究者のニュース」と「自称ショートスリーパーの配信が炎上気味になっているニュース」が、同じ9月9日という日に重なっただけの偶然だ。

ただ、柳沢さんが長年語ってきた「自称ショートスリーパーの99%以上は単なる睡眠不足」という指摘は、結果として、堀さんのような「訓練で短時間睡眠を身につけた」という主張全般に対する、専門家からの一般的な反証材料にもなっている。

まとめ

柳沢正史さんは、脳内物質オレキシンの発見によって睡眠と覚醒の仕組みを解明し、2026年のアルバート・ラスカー賞を受賞した世界的な睡眠研究者だ。ポケモンスリープの監修者としても知られ、研究と社会への発信の両面で睡眠科学を広めてきた。

その受賞発表と同じ日に、「1日30分睡眠」を掲げる堀大輔さんの配信が話題になっていたのは偶然の重なりだが、柳沢さんが以前から指摘してきた「真性のショートスリーパーは数千人に1人で、訓練で身につくものではない」という研究知見は、こうした主張を読者自身が判断する材料になるはずだ。

タイトルとURLをコピーしました