084deepsでは以前、「Kickは見るだけでも危険か」という記事の中で、KickとオンラインカジノStakeが同じ持株会社の傘下にある「兄弟ブランド」であることを整理した。今回はその資本関係の構造そのものではなく、背景にいる創業者2人が何者で、Kickがそもそもどういう経緯で生まれたのかを掘り下げる。

創業者2人はネトゲ仲間だった
Kick・Stakeを運営するEasygo Entertainmentの創業者は、エド・クレーブン(オーストラリア・コフスハーバー出身)とビジャン・テーラニ(アメリカ・コネチカット州出身)の2人だ。
2人の出会いは2010年頃、オンラインゲーム「RuneScape」だったとされる。当時クレーブンは15歳、テーラニは17歳。しかも2人は、ゲーム内で違法な「カジノ」を運営していたことが原因で、RuneScapeから追放されているという。10代の頃からギャンブル事業に関わっていたことになる。
> 出典:Forbes Australia「How Ed Craven and Bijan Tehrani built their $5.6 billion fortune」
Primedice→Stake.comへ:苦戦から急成長した経緯
2人は2013年2月、暗号資産を使ったギャンブルサイト「Primedice」を立ち上げる。これが初日で100万ドル以上のベットを処理する成功を収めた。
その後、2016年にオーストラリア・メルボルンで事業を再構築し、2017年6月に「Stake.com」を立ち上げた。当初は苦戦したとされるが、低いハウスエッジ(胴元の取り分)と「provably fair(公正性を検証可能)」という技術を武器に、競争力をつけていった。
Stake.comは今どれくらいの規模なのか
2024年時点で、Stake.comの総ゲーミング収益は47億ドルに達したと報じられている。親会社Easygoの2024年の売上は5億ドル超、純利益は約2.6億ドルとされる。ラッパーのDrake、UFC選手、サッカークラブなど、著名なスポンサーシップも積極的に展開している。
こうした事業の結果、Forbes Australiaの長者番付では、クレーブン・テーラニの2人がそれぞれ約28億ドル、合計で約56億ドルの資産を築いたとされている。

Kickが生まれた本当のきっかけ:Twitchによる「Stake禁止」
ここが今回もっとも紹介したいポイントだ。実はKickは、単なる新規事業として生まれたわけではない。
2022年9月、Twitchは「消費者保護の欠如」を理由に、Stakeなどオンラインカジノのスポンサーシップを受けた配信を禁止する規約変更を行った。これにより、Stakeがスポンサーする配信者は、Twitch上でギャンブル配信ができなくなった。
この措置への対抗策として、クレーブンとテーラニの2人が自ら立ち上げたライブ配信プラットフォームこそが「Kick」だったのだ。つまりKickは、「Twitchに締め出されたから、自分たちのプラットフォームを作った」という経緯で誕生したサービスだということになる。
テーラニ氏は当時を振り返り、「当初、多くの人がKickは失敗すると予想していた。マイクロソフトやフェイスブックも同様のプラットフォームで失敗していたから」と語ったとされる。
> 出典:Forbes Australia(上記)
Kickのその後の成長と、還元率95%の理由
Kickは2024年に23億時間の視聴時間を達成し、市場シェア12%を獲得したと報じられている。クリエイターへの収益還元率95%(Twitchの70%と比較)という高還元率は、084deepsの別記事でも詳しく扱っているが、その裏には、Stake社の潤沢な事業収益という背景があると考えられる。2〜3年以内の黒字化を目指しているとされ、現時点では投資フェーズにあるとみられる。

Stake社を巡る規制・トラブル
Stake社自体は、事業拡大の過程でいくつかの規制上のトラブルも経験している。
- 英国市場からの撤退(2025年3月11日):Stake.comは英国市場から撤退した。英国での運営はTGP Europeという企業とのホワイトレーベル契約を通じて行われていたが、TGP Europeは英国ギャンブル委員会の調査を受け、2025年5月に提携先の審査不備を理由に約330万ポンドの制裁金を科された。
- ハッキング被害(2023年9月):Stakeのイーサリアムウォレットの一つから4,100万ドル以上が盗まれる被害が発生し、北朝鮮のハッカー集団「ラザルスグループ」の犯行とみられている。
また、創業者らはオーストラリア・アメリカ市場への進出も目指しているが、オーストラリア国内ではStakeでの賭博自体が違法とされており、参入の障壁になっているという。クレーブンはForbes Australiaの「30 Under 30」に選出されなかったこともあり、審査員の一部からは「ギャンブルは評判が悪い」という指摘もあったと報じられている。ギャンブル事業出身という経歴が、社会的信頼の構築という面では今も課題になっているようだ。
まとめ
Kickは、オンラインゲームで出会った2人の若者が立ち上げたギャンブルサイト「Stake」の成功を土台に、Twitchから締め出されたことをきっかけに生まれた配信プラットフォームだ。創業者2人は合計で約56億ドルの資産を築いた一方、Stake社自体は英国撤退やハッキング被害といった規制上のトラブルも経験している。
Kickの高い収益還元率や、ギャンブル配信に比較的寛容な姿勢の背景には、こうした創業の経緯と、潤沢な事業資金を持つ親会社の存在があると考えられる。
なお、KickとStakeの資本関係の構造(持株会社Easygo Entertainmentの傘下にある兄弟ブランドという位置づけ)や、Kickを視聴すること自体の法律・セキュリティ面での安全性については、別記事で詳しく整理しているので、あわせて参考にしてほしい。
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