フジテレビが、元社長の港浩一氏(73歳)と元専務のほと亮氏(66歳)を相手に、50億円の損害賠償請求訴訟を提起した。2025年8月28日、東京地方裁判所に提訴されたこの訴訟は、中居正広氏(52歳)の元女性アナウンサーに対する「業務の延長線上での性暴力」問題への対応ミスが原因。第三者委員会の報告書で「善管注意義務違反」と認定された両氏の任務懈怠により、フジテレビに生じた巨額損害の責任を追及するものだ。2025年6月5日に提訴準備が発表されて以来、約2ヶ月半の調査を経て正式に訴状が提出された。今回は、この提訴の経緯、請求額の内訳、両氏の対応ミス、そしてフジテレビの今後の改革までをまとめてみた。
提訴の基本概要
フジテレビの親会社、フジ・メディア・ホールディングス(FMH)は、2025年8月28日に公式サイトで提訴を発表。原告は株式会社フジテレビジョンで、代表者は常勤監査役の柳沢恵子氏。被告は港浩一元代表取締役社長と大多亮元専務取締役の2人。請求額は50億円で、両氏に連帯責任を負わせる形だ。
- 提訴日: 2025年8月28日
- 裁判所: 東京地方裁判所
- 法的根拠: 会社法第423条第1項(取締役の任務懈怠責任)
- 請求内容: 両氏の対応ミスにより生じた損害の一部(総損害額453億3503万6707円のうち)の賠償
- 今後の可能性: 損害額が拡大した場合、請求額を増額する可能性あり
この提訴は、2023年6月の事件発生から約2年2ヶ月を経ての決着。FMHは「コンプライアンス強化に真摯に取り組む姿勢を明確に示すためには、元取締役の責任を追及することが不可欠」と強調し、社会貢献を目指す改革の象徴としている。
提訴の経緯:6月の準備発表から正式提訴まで

中居正広氏の性暴力問題は、2024年12月の週刊誌報道で表面化。2025年1月に港氏と嘉納修治会長が辞任し、新社長に清水賢治氏(64歳)が就任した。第三者委員会(委員長:竹内朗弁護士)の調査報告書(3月31日公表)で、港氏と大多氏の対応が「性暴力への理解不足」「被害者視点の欠如」「二次加害」と厳しく指摘された。以下に主な時系列をまとめた。
年月日 | 出来事 |
---|---|
2023年6月 | 中居氏が元女性アナウンサーをマンションに誘い、性暴力。社員Aが食事設定に関与した疑い。港氏と大多氏が事件を把握し、「プライベートトラブル」と判断。コンプライアンス室への報告を怠り、中居氏の番組(『まつもtoなかい』など)を継続。新規出演も決定。 |
2024年12月 | 週刊誌報道で事件発覚。港氏(当時社長)は社員関与を否定。 |
2025年1月17日 | 港氏の初会見(一部メディア限定・撮影禁止)で炎上。「調査委員会に委ねる」と繰り返し、ダルトン・インベストメンツから「真相隠蔽」と批判。 |
1月22日 | 大多氏(関西テレビ社長就任後)の会見で謝罪も、「中居を守る意識なし」と釈明。 |
1月27日 | 臨時取締役会で港氏と嘉納会長が辞任。新社長に清水氏。10時間超の会見で港氏が「人権意識の不足」を陳謝。 |
3月31日 | 第三者委員会報告書公表。「3人協議のクローズド体制は思考停止」「ハラスメント体質」と批判。スポンサー63社がCM停止、広告収入2.8%減。 |
4月4日 | 大多氏、関西テレビ社長辞任。「指摘を真摯に受け止め、責任を取る」。女性に直接謝罪意向。 |
6月5日 | FMHが提訴準備を発表。外部弁護士の調査結果に基づき、監査役が法的責任追及を決定。清水社長「善管注意義務違反あり、被害が生じている」。元編成部長ら5人を処分(降職、減俸など)。 |
7月 | フジ検証番組で大多氏の「女性アナは上質なキャバ嬢」発言暴露。港氏の「港会」接待文化も再燃。 |
8月28日 | 正式提訴。請求額50億円を公表。FMH「公共性をもって社会に貢献できる企業グループを目指す」。 |
6月の発表後、FMHは外部独立弁護士に法的分析を委任。調査で両氏の任務懈怠が確認され、提訴に至った。株主代表訴訟の可能性も指摘されているが、今回は会社側主導の訴訟だ。
請求額の内訳:総損害453億円の「一部」

請求額50億円は、2025年6月30日時点で算定された総損害額453億3503万6707円の一部。主な損害項目は以下の通り。
- 広告収入減: CM出稿停止による放送収入2.8%減(前年度比)。キー局5社中、フジHDだけが減収。他局は過去最高を記録。
- 株主・投資家からの損失: ダルトン・インベストメンツなどの指摘で株価下落。企業価値毀損。
- 二次被害対応費用: 被害女性の補償、社内調査・改革費用。
- イメージダウンによる間接損害: 視聴率低下、スポンサー離れ。TBS社長会見で「フジへのCM停止影響が結構ある」と明言。
FMHの決算では、在京キー局4社が過去最高売上に対し、フジだけが苦戦。総損害額は今後も拡大の見込みで、請求増額の可能性を明記。過去の類似事例(例: 594億円賠償の前例)から、両氏を待つ「訴訟地獄」が懸念されている。
両氏の対応ミス:善管注意義務の懈怠
第三者委員会報告書によると、港氏と大多氏は事件報告後、以下の義務を怠った。
- 事実調査の欠如: 「業務の延長線上」の性暴力可能性を「男女間のプライベートトラブル」と即断。専門家相談や原因分析なし。
- 対策チーム未設置: コンプライアンス推進室やリスク管理規程に基づくチームを指示せず、3人(港氏・大多氏・元編成制作局長)のクローズド協議のみ。
- 被害者配慮不足: 中居氏の番組継続で女性を刺激。社員Aの現金配送(二次加害)も黙認。
- 情報共有の怠慢: 外部漏洩を恐れ「絶対に口外するな」と指示。港氏の「軽く野放し」哲学がハラスメント体質を助長。
港氏はバラエティ黄金期の功労者だが、接待文化「港会」(女性アナ同席の食事会)が問題視。大多氏はトレンディドラマの帝王だが、不倫疑惑や女性アナ同席会合が「時代遅れ」と批判。報告書は「経営判断の体をなしていない」と断罪した。
フジテレビの今後の対応と業界への影響
清水社長は提訴会見で「すべての選択肢を残したまま」と、中居氏への法的責任追及も示唔。社内では元編成部長を4段階降職・懲戒休職、元編成制作局長を減俸50%、アナウンス室長をけん責、人事局長を戒告とする処分を実施。民放連が「特別プロジェクト」を設置し、業界全体のガバナンス向上を検討中。
- 改革策: コンプライアンス研修強化、外部相談窓口拡充。BSフジの反町キャスター降板など、ハラスメント事案対応。
- 経済的影響: 広告収入回復が急務。株主提訴のリスクも。
- 社会的意義: 人権意識の向上を促す。過去の「594億円賠償」事例のように、長期裁判の可能性大。

まとめ:改革の象徴か、訴訟地獄の始まりか

この提訴は、フジテレビの「旧体制との決別」を象徴する一方、港氏と大多氏の功績(バラエティ・ドラマ黄金期)を汚すもの。総損害453億円の重みは、両氏の私生活やキャリアに深刻な打撃を与えるだろう。裁判の行方は未定だが、業界全体のコンプライアンス改革を加速させるきっかけになるはず。フジの未来は、清水社長の改革手腕にかかっている。