広島東洋カープの矢野雅哉選手と前川誠太選手が、指定薬物「エトミデート」(通称「ゾンビたばこ」)を巡り、2026年9月25日に医薬品医療機器法違反の疑いで書類送検されたと報じられた。矢野選手は薬物を「譲り受けた」疑い、前川選手は「所持した」疑いとされている。
この事件は今回いきなり始まったものではない。発端は同じ「ゾンビたばこ」を巡って先に逮捕・起訴された羽月隆太郎元選手のケースで、そこから半年以上かけて球団全体を巻き込む問題へと広がってきた。何が起きて、なぜここまで長引いているのか、確認できている事実を時系列で整理する。
「ゾンビたばこ」ことエトミデートとは
エトミデートは、海外では全身麻酔の導入に使われる医療用医薬品成分だが、日本国内では未承認の物質だ。2025年5月26日に厚生労働省が「指定薬物」に指定し、医療目的以外での製造・輸入・所持・使用・譲渡がすべて禁止されている。
使用すると手足がけいれんし、まるでゾンビのように見えることから「ゾンビたばこ」と俗称される。作用時間が短いため「もう一度あの感覚を味わいたい」と依存に陥りやすく、大量摂取による呼吸停止や、繰り返し使用することで副腎不全を引き起こす危険性が指摘されている。
発端は羽月隆太郎元選手の事件
今回の矢野・前川両選手の書類送検につながる時系列は、次の通りだ。
| 時期 | 出来事 |
|---|---|
| 2025年12月 | 羽月隆太郎選手(当時)が自宅でエトミデートを吸引した疑い |
| 2026年1月27日 | 羽月選手を広島県警が逮捕。当初は容疑を否認 |
| 2026年2月6日 | 羽月選手が一転して容疑を認める |
| 2026年2月下旬 | 球団が羽月選手との契約を解除 |
| 2026年5月15日 | 初公判で拘禁刑1年・執行猶予3年の判決 |
| 2026年5月28日 | 羽月被告がSNSライブで謝罪。この中で「自分を含め6人のカープ選手が、同じ人物からエトミデートを購入していた」と発言 |
| 2026年7月17日 | 矢野選手が一軍登録抹消 |
| 2026年7月30日 | 広島県警が矢野・前川両選手の自宅を家宅捜索。前川選手も一軍登録抹消 |
| 2026年9月25日 | 矢野選手・前川選手を書類送検と報道 |
羽月被告が公判やSNSで語った「6人のカープ選手」のうち、具体的に名前が明らかになっているのは矢野選手と前川選手の2人のみで、残る選手の氏名は本稿執筆時点(2026年9月29日)でも報じられていない。
家宅捜索から書類送検まで、球団はどう対応したか
家宅捜索が行われた2026年7月30日、新井貴浩監督は「ご迷惑をおかけして申し訳ない」とコメントし、松田オーナー(オーナー代行)も「私たちも驚いている。ショックが大きい」「一生懸命にやっている選手のことを考えるとつらい。涙が出る」と心情を明かした。
そこから書類送検までは約2カ月の期間があった。この間、球団としての公式な処分は発表されておらず、警察の捜査結果を待つ姿勢が続いていた。
書類送検が報じられた9月25日、松田オーナーは「昨日の時点では分からなかった。今日、弁護士を通じて連絡があった。非常に重く受け止めている」とコメント。今後の選手の処遇については「結論が出ているのかも、まだ分からない」と述べ、検察の判断を見極めたうえで対応を検討する考えを示した。
選手側は「事実はない」と否認
一方、矢野選手の代理人弁護士は書類送検の報道を受けてコメントを発表している。要旨は次の通りだ。
- 警察の捜索・取り調べには誠実に対応してきた
- 違法薬物の譲り受けや使用の事実はないと説明している
- 尿検査では、矢野選手はもちろん、羽月元選手以外の選手についてもエトミデートを含む違法薬物の陽性反応は一切なかった
- 検察において確認されたうえで、矢野選手に起訴等の刑事処分がなされる見込みはないと考えている
前川選手についても、同様に違法薬物の譲り受けや使用の事実はないとの認識だと弁護士は説明している。
つまり現時点では、「書類送検された」という事実と、「起訴されるかは未確定で、選手側は容疑を否認している」という状況が並立している。書類送検はあくまで捜査機関が事件を検察に送る手続きであり、有罪が確定したわけではない点は押さえておきたい。
SNS・ファンの反応
X(旧Twitter)では、書類送検の報道を受けて、球団側の対応を求める声が見られた。「球団は速やかに契約解除すべきだ」「オーナーが会見して責任を取るべきだ」といった投稿があり、カープファンの間でも今後の球団対応に関心が集まっている。ただし、これらはあくまでSNS上で見られた一部の反応であり、ファン全体の総意ではない。
過去の薬物・ドーピング処分と比較すると
NPB(日本野球機構)には、ドーピング規定に基づく4段階の処分基準がある。軽い順に、けん責、10試合以下の出場停止、1年以下の出場停止、無期限の出場停止だ。
過去には、2008年にルイス・ゴンザレス選手(巨人)とダニエル・リオス選手(ヤクルト)がそれぞれ1年間の出場停止、2019年にはサビエル・バティスタ選手(広島)がドーピング違反で出場停止となり、その後契約解除に至った例がある。
ただし、これらは競技力向上を目的とした禁止薬物の使用に対する処分であり、今回のように刑事事件としての捜査が先行しているケースとは性質が異なる。矢野・前川両選手への球団としての処分は、2026年9月29日時点でまだ決まっていない。
今後どうなるのか
現時点で分かっているのは次の3点だ。
1. 矢野選手・前川選手は書類送検されたが、起訴されるかどうかは検察の判断待ち 2. 選手側は弁護士を通じて容疑を否認しており、尿検査でも陽性反応はなかったと主張している 3. 球団としての処分は、警察・検察の判断が出たあとに検討される見通し
検察が起訴に踏み切るのか、あるいは不起訴で決着するのか。そして球団がどのような判断を下すのか。続報が出次第、この記事も更新していきたい。
まとめ
今回の件は、羽月隆太郎元選手個人の薬物事件だったはずのものが、本人の告白をきっかけに球団全体を揺るがす問題へと広がったケースだ。矢野雅哉選手・前川誠太選手は書類送検されたものの、弁護士を通じて容疑を否認しており、検察の判断や球団の対応はまだ固まっていない。
「逮捕」「書類送検」「起訴」はそれぞれ意味が異なる手続きであり、現時点で確定しているのは書類送検されたという事実までだ。今後の展開が判明次第、随時追記していく。


