アジア大会の不祥事はなぜ相次いだ?原因と責任の所在を整理【2026年10月7日更新】

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2026年9月19日に開幕した愛知・名古屋アジア大会(第20回アジア競技大会)で、宿泊施設の不備や国歌の誤演奏など、運営トラブルが立て続けに報じられている。「なぜこんなに問題が重なっているのか」「結局誰が悪いのか」と気になった人も多いはずだ。

2026年10月7日時点(10月5日までの報道を反映)の要点は次の通り。

  • 何が起きた?:宿舎の不備、バスの配車漏れ、国歌の誤演奏、台湾ファンへの対応など、運営トラブルが開幕前後から続いた
  • 原因は?:2023年の選手村建設中止、経費の膨張、運営を委託した仏企業との連携など、準備段階の判断が積み重なったとみられる
  • 責任は?:組織委員会、OCA、国に分散していて、一人に絞れない。9月26日に組織委事務総長、9月30日に名古屋市長がそれぞれ謝罪した
  • 今は?:大会は10月4日に閉幕。組織委会長の大村秀章愛知県知事は「五輪を上回る規模の大会をやり切ることができた」と総括した一方、閉会式も空席が目立ち、海外メディアからは厳しい論評も出ている

結論から言うと、今回のトラブルは現場のミスだけが原因ではない。2023年の選手村建設中止にまでさかのぼる長期的な計画変更の積み重ねが背景にあり、責任も組織委員会・OCA(アジア・オリンピック評議会)・国のあいだで分散している。ここでは、確認できている事実をもとに経緯を整理する。

開幕直後から起きているトラブル

まず、9月半ば以降に報じられている主なトラブルを時系列で並べると次のようになる。

  • 9月8〜9日:名古屋で1時間当たり100ミリを超える猛烈な雨が降り、コンテナ型宿舎に滞在していた選手ら約400人が緊急避難する事態が発生
  • 9月11日:韓国男子バスケットボール代表のピョン・ジュンヒョン選手が、宿舎のトイレから水が漏れ続けて床が水浸しになった映像とともに「助けてください」とSNSに投稿。組織委は14日までに応急措置と修繕を終えたと説明している
  • 9月15日:選手宿泊拠点となる大型クルーズ船「コスタ・セレーナ」の接岸記念行事が名古屋港金城ふ頭で開催され、織田信長・豊臣秀吉・徳川家康の「名古屋三傑」に扮した武将隊がステージに登場
  • 9月16日:名古屋入りしたインド選手団が、宿泊施設に案内されるまで食事もないまま12時間近く待たされた。日本選手団もクルーズ船への乗船手続きに約6時間を要したケースがあり、中国選手からは書類手続きの長時間待ちを指摘する声も出た
  • 9月20日:インド選手団団長のサーデフ・ヤタブ氏が母国紙『Times Of India』に対し、「宿泊施設や送迎車・バスが明らかに不足している」「組織委はすべての責任を放棄し、『自分たちで何とかしてください』と言っている」と証言。インド側は独自に送迎車・追加ホテルを確保し、インドのスポーツ省も日本語対応スタッフ3人を追加配置する事態になった
  • 9月17日:タイのセパクタクロー代表が、宿泊予定のクルーズ船に入れずロビーの床で夜を過ごす
  • 9月17日:コンテナ型宿舎について、韓国バスケットボール協会幹部が「身長2メートルを超える選手はベッドの上で足を伸ばせない」と指摘(BBCニュース報道)
  • 9月18日:6カ国・地域を招いた歓迎セレモニーが1時間半遅延。組織委は「OCAの理事会が長引き、連絡がうまく取れなかった」と説明
  • 9月18日:大韓体育会が、15日の歓迎行事に朝鮮出兵(文禄・慶長の役)を主導した「豊臣秀吉」役が登場したことについて、OCAと組織委(AINAGOC)に抗議書簡を送付。組織委は16日の時点で「特定の歴史的人物を擁護・美化する意図はなく、歴史的メッセージを広報する目的もなかった」と説明していた
  • 9月19日:開幕式の会場(約3万席に増設)は式典終了まで空席が目立ち、地上波での生中継もなく配信のみだった
  • 9月19日:ホッケー男子・韓国対バングラデシュ戦で、韓国選手団の入場時に誤って北朝鮮の国歌が流れる
  • 9月19日:ハンドボール女子の韓国-香港戦で両国の国歌が流れず。事前の説明はなく、前日の北朝鮮国歌誤演奏を受けてOCAが「大会の運営体制を整えるため、一時的に国歌の演奏を取りやめた」ことによるものと報じられている。韓国側監督は「国際大会でこんなことは初めてだ」とコメント
  • 9月20日:バスケットボール男子・韓国代表の練習用バスが会場に現れず、最終調整が中止に
  • 9月20日:大韓体育会のイ・サンヒョン選手団長が、OCAのフセイン・アル・ムサラム事務総長と面談し、一連のトラブルへの抗議と再発防止を要請
  • 9月25日:野球のスーパーラウンド、台湾代表対中国代表戦(台湾が9-1で勝利)の一塁側スタンドで、「Taiwan」と書かれた応援タオルを持っていた台湾人観客が現場スタッフに制止される騒動が発生。周囲からは「中国国旗は許可されているのに、なぜ我々はダメなのか」との抗議が起き、「Team Taiwan」コールが広がった
  • 9月26日:組織委の村手聡事務総長が会見し、宿泊拠点の運営や関係者用バスの配車漏れなどのトラブルを改めて認め、「率直におわび申し上げたい」と陳謝
  • 9月26日:台湾タオル没収騒動の翌日に行われたチャイニーズ・タイペイ対日本戦の会場入口で、旭日旗などを示し「上記の旗は持ち込めません」とする掲示が行われる。台湾メディアは、この掲示が中華民国国旗(台湾国旗)の持ち込みも禁止しているように受け取れると指摘
  • 9月27日:スポーツ庁の河合純一長官が、大会前半のトラブルについて「大会後半に向けて私自身も安心している」との見解を表明
  • 9月27日:大会側が該当の掲示をすべて撤去。組織委は「現場の誤った認識」によるものだったとして謝罪し、旭日旗や「Taiwan」表記自体を禁止する特別な規定はないとした。神戸市議会の上畠寛弘議員は同日、文部科学相に台湾への対応を求める要望書を提出

これを受けて韓国選手団(大韓体育会)は組織委とOCAに抗議書簡を送り、幹部との面談を要求する事態になった。インドの大手スポーツ紙『Sportstar』も、コンテナ型施設を「選手の居住施設というより拘置所のように見える」と評し、選手団総監督の「組織委員会側はすべての責任を放棄した」とのコメントを紹介している。

なぜここまで問題が重なったのか

宿泊トラブルの根っこにあるのは、実は今大会が「選手村を作らなかった」大会だという点だ。

愛知・名古屋への招致が決まった2016年の時点では、約1万人を収容する五輪型の選手村が計画されていた。しかし2023年5月、資材価格の高騰で整備費が大幅に増える見込みとなり、建設は中止。県内のホテルで対応する方針に切り替わった。大規模な国際総合競技大会で選手村を設けないのは異例の判断だった。

さらに、宿泊をクルーズ船とホテルの組み合わせでまかなう計画に対し、OCAが「選手同士の交流機会が損なわれる」として難色を示したことから、災害時の転用も想定した仮設のコンテナ型宿泊施設が追加で新設された。結果として、約200棟のコンテナで約2,000人、客船「コスタ・セレナ」で4,000人、市内ホテルで9,000人という分散収容の形に落ち着いている。

当初1万5000人程度を想定していた参加者も、競技追加などで1万7000人を超える規模に膨らんだ。土壇場の計画変更と規模の見込み違いが重なったことが、宿泊環境の混乱につながったとみられる。

運営体制そのものにも背景がある

東スポWEBの取材によると、今大会では会場デザインやインフラ設営、入場管理、アクレディテーション(参加資格認証)、表彰式対応といった運営の中核業務を、フランス・リヨンに本社を置く「GL events」が担っている。大会関係者からは、同社が「ここは私たちの領域なので」と現場の意見を聞き入れない場面があったとの困惑の声が紹介されている。

その背景には、2021年東京五輪・パラリンピックの談合事件の影響で、経験豊富な国内大手代理店が今大会の受注に加われなかった事情があるとされる。結果として、大規模国際大会の運営ノウハウを持つ主体が限られたまま準備が進んだことが、現場対応力の不足につながった可能性がある。

組織委の内部資料を入手したとする文春オンラインの報道(2026年9月25日配信)によると、組織委は2025年4月、GL events Japanと58会場の設計・仮設インフラ・照明音響・入場管理・観客サービス・表彰式対応などを一括で任せる約630億円の随意契約を結んだ。愛知県は「個別発注なら約700億円かかるところを、かなり低く抑えられた」と説明してきたという。しかし内部資料では、本来2025年6月末までに完了する予定だった仕様・金額を詰める「スコーピング」作業が、当初段階から長期にわたり遅れていたことが明かされている。契約額をさらに上回る追加の計画があったとも報じられているが、その具体的な内訳は現時点で確認できていない。

GL eventsとはどんな会社で、なぜ電通など国内大手に代わって起用されることになったのか、電通の談合事件の詳しい経緯や大阪・関西万博での未払い問題については、以下の記事で詳しく整理している。

経費は当初の3倍以上に

費用面でも計画からの乖離は大きい。招致決定時、大会とアジアパラ大会を合わせた経費は約1000億円と見積もられていた。しかし大村秀章愛知県知事は2025年12月22日の記者会見で、最終的な経費見通しが総額約3700億円に達すると公表した。当初計画の3倍を超える金額だ。

増加分の内訳としては、物価・人件費の上昇で約550億円、OCAや各競技団体との協議・調整で約600億円が挙げられている。加えて、2018年当時の政府方針では「国は特別な財政措置を行わない」とされていたにもかかわらず、2025年には国費136億円の拠出で調整が進んでいると報じられた。当初の方針からの転換であり、費用負担のあり方自体が二転三転してきたことがうかがえる。

責任は誰にあるのか

こうした経緯を踏まえると、「誰か一人の責任」に単純化するのは難しい。

大会組織委員会は大村秀章愛知県知事が会長を、広沢一郎名古屋市長が会長代行を務め、開催都市側が運営の中心を担う体制になっている。歓迎セレモニーの遅延や国歌の誤演奏といった現場対応のミスは、この組織委員会の準備・運営体制に直接の責任があると言えるだろう。実際、国歌の誤演奏については組織委が「深くおわびする」との談話を出し、関係者が韓国選手団を訪ねて謝罪している。

一方で、宿泊施設不足という根本的な問題は、選手村建設中止という上位の意思決定に由来する。この決定に加え、宿泊方式についてOCA側が土壇場で追加の要求(コンテナ設置)をしたことも、混乱を大きくした要因のひとつだ。開催都市だけでなく、大会を運営するOCAの側にも計画の一貫性を欠いた責任はある。

さらに、費用負担については国の関与も無視できない。2018年に「財政負担はしない」としていた国が、後になって136億円を拠出する方向に転じた経緯は、大会全体の資金計画がどこまで見通しを持って進められていたのかという疑問を残す。

つまり今回の問題は、開催都市(愛知県・名古屋市)、OCA、国という複数の主体が、それぞれの局面で計画変更や責任転嫁とも取れる判断を重ねてきた結果として表れている。誰か一人を「悪者」にして片づけられる話ではなく、招致から10年近くにわたる意思決定の積み重ねそのものが問われている状況だ。

組織委が一部報道に反論(2026年9月22日)

2026年9月22日、組織委員会は公式サイトで、開幕後初めてとなるまとまった反論声明を発表した。日刊スポーツ(Yahoo!ニュース配信)によると、組織委は次のように説明している。

  • 9月16日のクルーズ船乗船遅延について、「組織委員会が宿泊情報を宿泊システムに送信しなかったことが原因」とする報道を否定し、「一部の選手団から提出された書類の不備の調整に時間を要したことが、乗船の遅延や混乱の主な理由」と説明
  • 一部競技会場での食事の質に関する批判についても、「当該飲食は組織委員会が提供したものではない」とし、国際テックボール連盟が費用分担で用意したものだと説明

一方で記事は、国歌の誤演奏やバスの不着といった、組織委側の準備・現場対応そのものに起因する問題については、この声明で直接触れられていない点を指摘している。宿泊・食事トラブルの一部を「自分たちの責任ではない」とする組織委と、現場ミスの責任を問う韓国選手団・海外メディアとのあいだで、認識のずれが表面化した形だ。

批判はさらに拡大(2026年9月24〜26日)

組織委の反論会見(9月22日)のあとも、批判は収まっていない。

2026年9月24日、大韓体育会のユ・スンミン会長が韓国メディアに対し、名古屋アジア大会の運営を「落第点」と厳しく評価したと報じられた。9月20日時点では選手団長がOCA事務総長に面談を要請する段階だったが、体育会トップ自身が公に酷評するところまで批判が強まった形だ。

食事面での不満も複数国に広がっている。韓国代表からは食事の質への不満が伝えられているほか、中国選手団のクルーからも食事量への不満から「自分たちで弁当を手配した」との報道があった。開幕式で目立った客席の空席についても、卓球競技で韓国が60年ぶりの快挙を挙げた試合ですら観客席が閑散としていたと韓国メディアが伝えるなど、大会を通じた観客動員の課題として続いている。

さらに2026年9月25日には、日本国内のスポーツメディアからも、組織委が開いた反論会見について「悪いのは向こうです、と言いたげ」「言い訳タラタラ」といった否定的な評価が出た。取材記者からは「このままでは、日本開催史上最悪のスポーツ大会の烙印を押されますよ」との声も紹介されている。組織委の説明と、選手団・海外メディアの受け止めとのあいだの溝は、反論会見を経てもなお埋まっていない状況だ。

なお、2026年9月25日には体重差を理由にした異例の勝敗規定に対しインド選手が抗議したとの報道もあったが、これは競技ルール・判定を巡る個別の論点であり、本記事が扱う組織委・OCA・国の運営上の意思決定問題とは性質が異なるため、今回のスコープには含めていない。

台湾サポーターのタオル没収騒動(2026年9月25日)

2026年9月25日、野球のスーパーラウンドで行われた台湾代表対中国代表戦(台湾が9-1で勝利)で、また性質の異なるトラブルが起きた。一塁側スタンドで「Taiwan」と書かれた応援タオルを持って応援していた台湾人観客が、試合後半に現場スタッフから制止される事態になったと、台湾の通信社・中央社(フォーカス台湾)や台湾メディアが報じている。

スタッフは、タオルの文言が大会規定に反する「政治的主張」に当たると説明し、台湾代表のユニフォームについても問題視したという。日本語を話せる台湾人観客の女性がスタッフに対し「『Taiwan』は政治的な主張だとは考えていない」「規定があるなら明確に示すべきだ」と抗議したところ、スタッフは「大会運営側の基準では政治的主張に当たる」としたうえで、騒ぎが収まらない場合は退場を求める可能性があるとも伝えたという。

これに対し周囲の台湾人観客からは「中国国旗は許可されているのに、なぜ我々はダメなのか」との声が上がり、会場内の複数箇所で「Team Taiwan(チーム台湾)」というチャントが起きた。最終的に退場者が出る事態には至らなかったが、タオルが返却されたかどうかや組織委からの正式な釈明は、現時点で確認できた報道の範囲では明らかになっていない。

アジア大会の規定では、参加していない国・地域の国旗を掲げることや、政治的・思想的・宗教的な主義主張、公序良俗に反する内容の物品の持ち込みが禁止されている。中国が台湾を国家として扱わない立場を取っていることもあり、台湾を巡る表現は国際スポーツの現場でたびたび摩擦を生んできた経緯がある。今回のケースも、その規定の運用が「一方の国旗は容認され、もう一方の応援グッズは規制される」という不公平感を招いた形だ。豊臣秀吉役登場への抗議と同様、政治・文化への配慮を欠いた現場運用が批判を招いた事例と言える。

騒動はこの1試合では収まらなかった。翌9月26日、チャイニーズ・タイペイ対日本戦の会場入口では、旭日旗などの絵柄を示して「上記の旗は持ち込めません」とする掲示が行われた。台湾メディアは、この掲示が中華民国国旗(台湾国旗)の持ち込みも禁止しているように受け取れると指摘している。大会側は「現場の誤った認識」によるものだったとして謝罪し、9月27日にはこの掲示をすべて撤去。旭日旗や「Taiwan」という表記そのものを禁止する特別な規定は存在しないとした。

同じ9月27日には、神戸市議会の上畠寛弘議員が関芳弘文部科学相に対し、タオル没収と国旗掲示の一連の対応について要望書を提出したことも明らかになった。要望書は、事実関係の検証、大会規則の拡大解釈による台湾の応援制限の廃止、参加者の人格・尊厳の尊重を大会側に働きかけることを求めている。一自治体議員による要望であり、国や組織委の正式な対応方針の変更を意味するものではないが、タオル没収から掲示問題、政治家への要望書提出へと、騒動が段階的に広がっていることがうかがえる。

組織委が改めて謝罪、スポーツ庁長官は「後半は安心」(2026年9月26〜27日)

2026年9月26日、組織委員会の村手聡事務総長が名古屋市内で会見し、大会前半の運営トラブルについて改めて説明した。宿泊拠点の運営や、関係者向けバスの配車漏れなどを認めたうえで、「原因はさまざまだが、ミスが起こったことは率直におわび申し上げたい」と陳謝。一方で「現時点では競技に影響が出るような事象はない」とも述べ、チケット販売については「全体的に好調」で、空席が目立つ点は複数試合の同日開催や観客の集中傾向によるものと説明した。

翌27日には、スポーツ庁の河合純一長官が名古屋市内で記者会見し、一連のトラブルについて「こうした大会ではいつものことかなと受け止めている。しっかり解決していると思っており、大会後半に向けて私自身も安心している」との見解を示した。組織委による謝罪が続く一方、所管官庁トップからは早くも「収束した」との受け止めが示された形で、現場で相次ぐ批判と、行政側の評価とのあいだには、なお温度差がうかがえる。

大会終盤の動き(2026年9月30日〜10月3日)

大会が終盤に入ってからも、運営への評価をめぐる発言が続いている。

9月30日:名古屋市長が謝罪 大会組織委員会の会長代行を務める広沢一郎名古屋市長は、9月30日の会見で「迷惑をかけた選手・関係者の方にはお詫びを申し上げなければいけない。不手際があったことを真摯に反省しなければいけない」と述べた。あわせて「ヒューマンエラーや選手団との連絡不足があった。起きたことを踏まえて対応している」とも話している(メ〜テレ報道、ライブドアニュース配信)。

10月2日:専門家は「権限の所在」を指摘 メ〜テレの取材に対し、環太平洋大学大学院の真田久教授(スポーツ科学)は、名古屋で現地を見た印象として「誰に聞いても『私は権限がないので分かりません』のような答えが多かった」と話した。運営を請け負ったGL eventsについては、2024年パリ五輪でも運営を務めた実績から「運営の能力やノウハウを持っていると思う」としたうえで、問題は同社とのコミュニケーションだと指摘。マニュアルの整備や、現場への権限委譲を含めた「もっと緻密な計画が必要だった」と述べている。同じ報道では、ボランティアからも「指示にない事象が起きた時に、明確な指示が出せる人が見つからない」という声が紹介された。

10月3日:JOC会長「課題を次の大会にどうやっていくかが重要」 日本オリンピック委員会(JOC)の橋本聖子会長は10月3日、名古屋市内での会見で、若い選手の活躍が目立ったと振り返ったうえで、運営について「非常に厳しい声をいただいているのも事実ですし、それも私も分かります。課題を次の大会にどうやっていくかが重要」と語った(メ〜テレ報道)。

ここで注目したいのは、9月22日の組織委の反論会見の時点では「自分たちの責任ではない」という説明が目立っていたのに対し、9月26日の事務総長、9月30日の名古屋市長と、組織委側から「反省」「おわび」の言葉が相次いでいる点だ。専門家が指摘する「権限が現場に渡っていなかった」という構造が事実なら、この記事で整理してきた「責任の分散」は、現場レベルでも起きていたことになる。ただしこれは報道されている専門家の見方であり、組織委が公式に認めた内容ではない。

閉幕と各方面の総括(2026年10月4〜5日)

大会は10月4日、パロマ瑞穂スタジアムでの閉会式で16日間の日程を終えた。閉幕後に出てきた総括は、立場によって温度差が大きい。

組織委員会:「五輪を上回る規模をやり切った」 組織委員会会長の大村秀章愛知県知事は、「いろいろな課題や難しい局面があったが、五輪を上回る規模の大会をやり切ることができた」という趣旨で総括した(中日新聞、10月5日)。OCA(アジア・オリンピック評議会)のタヤブ・イクラム調整委員長は「アスリートにとって素晴らしく最高の経験となった。とても満足している」と述べている。

時事通信:異例の運営方式の「功罪」 時事通信(10月5日配信)は、大手広告代理店に一括委託しない異例の方式で運営し、予算は2980億円だった点に触れている(東京五輪は1兆4238億円と対比)。スポンサー収入は目標を上回る約270億円に達したとされる。選手村を設けないなどのコスト削減の手法は今後の大会の参考になり得る一方、ノウハウの継承や人材育成が課題だと指摘している。宿泊環境への対応や、輸送の予約システムの改善は大会期間中に進めたとも伝えられている。

スポニチ:OCAの姿勢を批判 スポーツニッポンの総括記事(10月5日)は、OCAのムサラム事務総長が総括会見で「54もの世界記録が生まれた。これは最高の環境がなければ出ない」と述べたことについて、運営トラブルへの謝罪や弁明がなく成果のみを強調していると批判した。一方で、JOCの橋本聖子会長が「アスリートに迷惑をかけた」と当事者意識を示した点は評価している。これは記者個人の論評であり、事実関係として確認された評価ではない。

閉会式も空席が目立つ スポーツ報知やデイリースポーツ(いずれも10月4日)は、閉会式も開会式に続いて空席が目立ったと報じた。組織委は割引チケットやボランティアへの無料配布で空席を減らそうとしたが、埋まらなかったという。具体的な来場者数は、今回確認した報道では示されていない。SNSでは「約6割程度の収容率」と推測する声もあったが、これは公式の数字ではない。

海外メディア:「大会を象徴」「2週間の混乱」 フットボールチャンネル(10月5日)によると、シンガポール紙『The Straits Times』は、閉会式の空席が「日本で開催された今大会を象徴していた」と指摘した。香港紙『South China Morning Post』は大会を「2週間の混乱」と評し、閉会式を「大会全体のアプローチと同じように奇妙だった」と論評したという。女子サッカー準決勝では、約5万人収容の会場に観客が998人だったことも問題として挙げられている。

こうして並べると、運営側は「規模と経費の面では成果があった」、報道・海外メディアは「トラブルと空席が目立った」と、評価の軸がすれ違っているのが分かる。選手村を設けず経費を抑える方針そのものと、それに見合う運営体制を整えられたかどうかは別の問題で、検証ではこの二つを分けて見ていく必要があるだろう(以上は筆者の整理)。

今後への影響

国内メディアでは、今回のトラブルが今後の日本による五輪やサッカーW杯などの国際大会招致に悪影響を及ぼしかねないとの懸念も出ている。「日本はこれまで多くの大規模スポーツ大会を成功させ、世界的評価も高かった。そうしたブランドを崩しかねない」との指摘だ。

なお、9月22日時点では大型の台風25号が接近しており、選手の宿泊拠点になっているクルーズ船「コスタ・セレーナ」について、組織委は強風域がかかる3時間前に避難体制を発令する方針としていた(その後の対応は本記事では確認できていない)。大会は予定通り10月4日の閉会式で幕を閉じており、焦点は「閉幕後にどこまで検証されるか」に移っている。なお、愛知県・名古屋市・組織委による公式な検証の場や時期は、10月5日までの報道では確認できていない。

韓国メディアの受け止めも厳しい。ハンギョレ新聞の記者は一連の国歌トラブルについて「今大会で最も理解できないことだ」としたうえで、組織委員会の運営全体を「拙い運営は、日本に対するイメージを変えてしまいかねない重大な問題だと思う」と評している。

運営面でのトラブルが続く一方、競技そのものでは明るいニュースもあった。11歳の栗原悠輝選手がぷよぷよeスポーツで金メダルを獲得し、アジア大会史上最年少メダリストになっている。

まとめ

愛知・名古屋アジア大会で相次ぐトラブルは、単発の運営ミスというより、選手村建設中止(2023年)、宿泊方式をめぐるOCAとの調整、経費が当初計画の3倍以上に膨らんだ資金計画の混乱、そして運営の中核業務を担うフランス企業GL eventsとの630億円随意契約や経験豊富な国内代理店不在という体制面の弱さなど、大会準備の各段階で積み重なった判断のツケが開幕後に表面化したものだ。歓迎行事での豊臣秀吉役登場や、台湾ファンの応援タオル没収・旭日旗禁止掲示騒動のように、文化的・政治的な配慮を欠いた現場運用も批判を招いている。

責任は開催都市の組織委員会だけでなく、OCAや国にもまたがっており、2026年9月22日には組織委自身が一部トラブルについて「自分たちの責任ではない」とする反論も始めた。しかしその後も批判は収まらず、9月24日には大韓体育会長が運営を「落第点」と酷評し、9月25日には反論会見そのものへの不評が日本国内のメディアからも出た。9月26日には組織委事務総長が改めて謝罪した一方、9月27日にはスポーツ庁長官が「大会後半は安心している」との見解を示すなど、現場の批判と行政側の受け止めのあいだには温度差も見える。台湾関連の掲示問題では9月27日に組織委が掲示を撤去・謝罪したものの、同日には神戸市議から文科相への要望書提出という形で問題が政治の場にも波及した。10月3日にはJOC会長が「課題を次の大会にどうやっていくかが重要」と述べた。そして10月4日の閉幕後、組織委側は「五輪を上回る規模をやり切った」と総括したが、閉会式の空席や海外メディアの論評など、外からの評価は厳しいままだ。大会後の検証が次の焦点になる。その検証では「誰が何を決め、なぜその判断に至ったのか」に加えて、「誰が何を認め、何を認めていないのか」も段階ごとに整理していく必要があるだろう。

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