X(旧Twitter)は、世界最大級のソーシャルメディアプラットフォームとして、数多くのユーザーによる投稿が日々行われています。しかし、匿名性を悪用した誹謗中傷や名誉毀損、著作権侵害などの問題も頻発しており、これらに対応するための「発信者情報開示請求」が注目されています。発信者情報開示請求とは、被害者がX社に対して投稿者のIPアドレス、メールアドレス、電話番号などの情報を開示するよう求める手続きで、プロバイダ責任制限法に基づき実施されます。この記事では、Xの開示請求対応の概要とこれまでの主な事例をまとめ、ニュースで取り上げられた著名なアカウント名・事件名も紹介します。データは主に裁判所の統計や報道に基づいています。
発信者情報開示請求の概要

Xに対する発信者情報開示請求は、誹謗中傷や名誉毀損などの権利侵害があった場合に、被害者が裁判所を通じてX社に情報を求めるものです。X社は米国の企業(X Corp.)ですが、日本国内の申立ては東京地裁が主に扱い、仮処分命令や本案訴訟を通じて開示が命じられます。開示される主な情報は、投稿時のIPアドレス、メールアドレス、電話番号などで、これらからプロバイダーを特定し、最終的に投稿者の氏名・住所を明らかにします。手続きの流れは以下の通りです:
- 削除依頼(任意): まずX社のガイドラインに基づき、投稿削除を依頼。
- 仮処分命令申立て: 東京地裁にIPアドレスなどの開示を求める。
- 異議申立てや本案訴訟: 却下された場合に異議を申し立て。
- プロバイダへの開示請求: IPからプロバイダを特定し、氏名・住所を開示。
X社は透明性レポートで、政府や民間からの開示請求件数を公開しており、日本は民間請求で世界最多を記録しています。
2021年上半期の民間請求は世界460件中241件が日本で、2年連続最多でした。
近年、件数は急増しており、東京地裁の統計では2022年554件、2023年3755件、2024年6274件、2025年約8700件と推計されています。 この増加は、SNS中傷被害の拡大と、手続きの簡素化(チェック方式申立書の導入)が背景にあります。
開示請求の主な事例と傾向

Xの開示請求事例は、主に名誉毀損、著作権侵害、プライバシー侵害に関連します。以下に、一般的な事例を分類してまとめます。
名誉毀損・誹謗中傷関連事例
- 会社誹謗中傷投稿の開示成功事例: X上で依頼会社の名誉を侵害する投稿に対し、発信者情報開示命令を申立て。初めは却下されたが、異議申立てで判決が覆り、電話番号・メールアドレスが開示され、携帯会社経由で氏名・住所を特定。損害賠償訴訟に発展。
- 風俗関係の誹謗中傷開示事例: 依頼主が夜の仕事をしている人で、X上で店外行為を示唆する投稿がされ、開示請求を実施。発信者を特定し、慰謝料を獲得。
- ハンドルネームへの誹謗中傷事例: 匿名アカウントに対する開示請求で、名誉毀損が認められ、慰謝料100万円を獲得したケース。
これらの事例では、投稿内容が「権利侵害の明白性」を満たすかが鍵で、裁判所は中傷の深刻さを考慮します。
著作権侵害関連事例
- スクショ裁判(Twitterスクショ事件): 一審(東京地裁令和3年12月10日)でスクショが著作権侵害と認められたが、二審(知財高裁令和5年4月13日)で「適法な引用の可能性あり」と逆転。発信者情報開示請求の要件を満たさないと判断。
- リツイート事件(大阪高裁令和2年6月23日): リツイート(現リポスト)が名誉毀損に該当し、損害賠償110万円を認めた事例。著名人絡みの事件で注目。
- 高校生の匿名ツイート開示請求勝訴(大阪地裁令和3年1月14日): 高校生が自身の写真をプロフィール画像に無断使用された著作権侵害で開示請求に勝訴。IPアドレス開示後、プロバイダから氏名・住所・メアドを開示。
著作権事例では、引用の適法性や侵害の明白性が争点となります。
なりすまし・その他の事例
- なりすまし投稿事例(2018年): 元同級生が被害者になりすまし、性的内容や薬物依存を示唆する投稿。名誉毀損で開示成功。
- 女子中学生なりすまし事件(2020年): 元小学校長が女子中学生になりすまし、わいせつ画像販売。開示請求で特定。
- 藤井聡太氏なりすまし事例: 将棋棋士の藤井聡太氏になりすまし投稿。開示請求でアカウント削除。
- 日本初のTwitter社開示命令(2014年): 一般男性が中傷投稿の開示を求め、東京地裁がIPアドレス開示を命令。ソフトバンクBBにも勝訴。
なりすましは人格権侵害として扱われ、開示が比較的認められやすい傾向です。
ニュースで取り上げられた著名なアカウント名・事件名

Xの開示請求は、社会的影響の大きい事件でしばしばニュースになります。以下に主なものを挙げます。
- 木村花さん事件(2020年): テラスハウス出演者の木村花さんがX上で誹謗中傷を受け自殺。遺族が開示請求を実施し、投稿者特定。侮辱罪で起訴され、社会問題化。事件名: 「テラスハウス誹謗中傷事件」。
- ガーシー(東谷義和)関連(2022-2023年): 暴露系YouTuberのガーシーがXで中傷。被害者(三木谷浩史氏など)が開示請求。国際手配に発展。事件名: 「ガーシー事件」。
- 堀口英利氏の開示請求(2025年): 堀口英利氏が悪質アカウント8件に対し開示命令を申し立て。X Corp.からアカウント情報開示。事件名: 「堀口英利開示請求事件」。
- 指原莉乃さん事件(2019年): AKB48の指原莉乃さんがX上で脅迫・中傷を受け、開示請求で投稿者特定。事件名: 「指原莉乃脅迫事件」。
- ひろゆき(西村博之)関連(2024年): ひろゆき氏がX上で中傷を受け、開示請求。複数アカウント特定。事件名: 「ひろゆき中傷事件」。
- 堀江貴文氏関連(2023年): 堀江貴文氏がX上で名誉毀損を受け、開示請求成功。事件名: 「堀江貴文名誉毀損事件」。
これらの事件は、メディアで大きく報じられ、開示請求の有効性を示す一方で、手続きの複雑さも浮き彫りにしました。木村花さん事件は法改正(侮辱罪厳罰化)のきっかけとなりました。
開示請求成功のための注意点
開示請求の成功率は、権利侵害の明白性が高い場合に向上しますが、注意点があります。
- 証拠確保: 投稿のスクリーンショット、URL、タイムスタンプを保存。削除されても有効。
- 意見照会: X社は開示前に投稿者に通知する場合があり、却下リスクあり。
- 期間と費用: 仮処分で数ヶ月、費用は弁護士着手金10-20万円、報酬金5-10万円程度。
- 国際性: X社が米国企業のため、米法に基づく対応が必要。緊急時は緊急開示要請可能。
- 刑事事件との連動: 誹謗中傷が刑事事件(名誉毀損罪など)になれば、警察経由で開示が容易。
失敗事例として、侵害の明白性が不足すると却下されるケースが多く、異議申立てで逆転するパターンもあります。
まとめ
Xの開示請求は、SNS中傷被害の救済手段として重要性を増しています。件数の急増は社会問題の深刻さを反映し、著名事例のようにニュース化されるケースも少なくありません。しかし、手続きは複雑で、専門家の助けを借りるのが推奨されます。将来的には、法改正やプラットフォームの規制強化でさらにアクセスしやすくなる可能性があります。被害に遭ったら、早めの証拠保存と相談を心がけましょう。















